URBAN FOLKLORE   

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宮城に戻ってきてから、私はリハビリに専念した。
烏野は何の問題もなく一次予選を突破して、東京遠征を入れつつ10月の本戦に向けて特訓に励んでいた。
月島は市民体育館で社会人相手に練習しているらしいし、
たまーに部活に顔を出してみると、特に個人技のレベルが上がったように見えた。


こちらで通っている病院は少し大きな所で、電車で2駅ほど行った所だった。
宮城の高校は大体、病院へ向かうこの電車で覚えた。
宮城でバレーの強豪と言えば、男子は白鳥沢、女子は新山女子。
加えて烏野メンバーからよく聞く学校として、青葉城西、伊達工。
その4校の制服で背の高い人などを見つけると、バレー部でないかなーとか考えてしまうものだった。

そんなある日のこと、白鳥沢も青葉城西、同じ白ブレザーでもよりさわやかな感じがする方。
青葉城西の制服に似合わずラインの入った髪型、明らかに不良の風貌の人がいた。
そこまで背が高いわけでもないので初めて見たときは、あまり見ないでおこうと思って流したのだった。

それから数日後のこと、大きな病院だあるからだろう、私が降車する駅は特別乗り降りの人数が多い。
目の前の荷物を持ったおばあさんが転んでしまった。

「大丈夫ですか?!あぁっ荷物が!」

おばあさんは割と大丈夫そうだったので、まず転がってしまったおばあさんの持ち物を拾い集めて届ける。
結構重そうな荷物なのでそのまま出口まで持つつもりだったのだけど、持ち上げた瞬間に誰かに奪われた。
私は奪った人物を見て固まった。

「あ!」

「・・・んだよ。」

「あ、いえ、すいません。」

反射で誤ってしまった。
そこにいたのは数日前に見かけた青葉城西の不良だった。
そのまま何も言わずに荷物を持って出口に向かう不良。
同じく無言でついていく私。
おばあさんだけが「悪いねぇ」「えらいねぇ」などと呟いていた。

おばあさんを見送った後、横にいる不良を見て気が付く。

(カバンに入ってるボール、バレーのボールだ・・・!)

「何見てやがる。」

「えっ!あぁ、あの、バレーやるんですね。青葉城西のバレー部、強いって聞いてます。」

私がそう言うと、不良はチッと舌うちをした。
この時間に青城男子バレー部が練習をしていないというだけで何かあるとは思うし、怖いので特に言及はしない。
まだ十分に暑い8月のこの日はそのままお互い何も言わず離れたのだった。

だんだんと寒くなってきた9月も末のこと。
病院帰りに寄り道などをして遅くなってしまったある日。
病院の駅から一駅来た所でその人は乗ってきた。
ちらほらと乗っている他の人もその風貌に一瞬めをやるが、向こうも私がいるのがわかったのかこちらを見たのでバッチリと目があってしまった。

「よぉ。」

私がヤベーなどと思いながらも目をそらさずにいると、意外なことに向こうから挨拶してきた。
何やら機嫌がよさそう?
ドカッと隣に座られて、少しおびえながらも挨拶を返した。
不良って挨拶に厳しそうだし。

「お、お久しぶりです。」

「おぅ。」

「部活帰りですか。」

「おぅ。」

簡単に想像がつく。
8月に会ったときは部活に行っていなかっただろう人が今は部活に行っている。
見るからに不良だし、何かあったのだろう。
呼びもどされたこの人は、チームに必要な人で、本戦に出場する人なんだろう。

「私、って言います。烏野男子バレー部のマネージャーなんです。」

そういうと、不良は目を少しだけ大きくして驚いていた。
まぁ、そんなに大変なことでもないし、ここで会ったことを烏野のみんなに言うつもりもない。
ていうかずっと”不良”って呼んでいるけど、実際真面目に部活をしているし、あの時助けてもらったし、
この人見た目だけだというのは分かっていたのでいい加減失礼だと思っていた。

「あの、名前、何て言うんですか?」

「・・・京谷。」

「京谷さん。あっ、特にチームの人に何か言うともりとかないんですけどっ。」

本戦出場する人を激励するのに、なんて呼べばいいのか分からなかっただけで。
名前を聞いたところで、次の駅に到着するアナウンスがあった。
私は席を立って京谷さんの方を向いて言う。

「本戦で京谷さんのプレー見るの、楽しみにしてますね。」

最後にひとつ頭を下げて降車した。
京谷さんは目を開いて固まっていた。
夏からのリハビリでかなり腕の調子がいい私も機嫌が良かったので、いい笑顔だができたと思う。