01
久々の帰省だった。
再び旅に出て訪れたことの無い地方を巡り見聞を深め、時にはポケモンの知識を深めるためと口実を作りカントー地方へと出向きオーキド博士の元を訪ね、マスターズエイトへ出場するかつてのライバルの様子を確認することもした。
ジムリーダーの就任を先延ばしにしながら――
ジムリーダーを引き受けることは決めている。
得意なタイプ、スタイル、ビジョンはある。
だがしかし、何かが足りない。
それがどういったものなのか分かっていないわけではない。しかし、どうすればいいのかは分からない。そういった状態だった。
ジムリーダーになってから見つけても遅くはないのだが、今のうちだからこそ見つけられるものもあるだろう。
そういった理由で、シンジは協会に事を先延ばしにしてもらっていた。
「話を受けてからもう随分と経つ気がするけど、協会からは急かされたりしないのかい?」
トバリシティで育て屋をしているシンジの兄のレイジがテーブルに紅茶の入ったティーカップを起きながら言った。
カップはシンジの前にひとつだけ。どうやらレイジは仕事が忙しく、ゆっくりと談笑するつもりはないらしい。
シンジは紅茶を一口飲み、手短に答えた。
「急かされたりはしていないが、このままここでのんびりするつもりはない。2、3日したらすぐにまたここを立つ」
「2、3日居てくれるのかい?!それは良かった!」
「…なにがだ」
「実はさ――」
――次の日
シンジはミオシティにほど近い、自分と同じ名を持つシンジ湖のほとりにいた。
そこにある土を持参した袋へ入れる。
先ほどキッサキとハクタイでも同じ事をした。
袋三つ分の土が収まったバッグがズシリと重い。
レイジの頼み事とは、預かっているどうも落ち着きのないポケモン達のために土でもきのみでも故郷のものを何か採ってきて欲しいというものだった。
確かに育て屋を営みながらでは誰かに頼みでもしない限り出来そうにない要件だが、それにしても久々に帰省し、またすぐに立つと宣言した弟を容赦なく使うあたり、兄はどこか違う方向に強かになったのではないかとシンジは思った。
「これくらいでいいだろう。帰るぞ、ドンカラス」
シンジが背中をひと撫でし、グワ、と低く鳴いたドンカラスが翼を広げた瞬間だった。
緑色の光が視界を埋め尽くした。
ドンカラスが咄嗟に臨戦態勢をとる。
(あれは……リーフストーム?すごい威力だ……いや、それ以上に……)
あれほどまでのリーフストームを野生ポケモンが繰り出せるとは思えない。
ここからは見えないが、林の向こうに強いトレーナーがいる。
キッサキやハクタイでもそこら辺にいたトレーナーとバトルをしたが、まったく手応えがなく物足りなさを感じていた。
強い相手と戦うことは少なからず学びになる。あのようなリーフストームを繰り出せるポケモンを持つトレーナーであれば、今のシンジにとっては尚更――
シンジはほとんど反射的に技の出所であろう場所へと駆けだしていた。
後ろからついてきたドンカラスが上空からシンジに視線を送る。
自分が先行って見つけだすという意図を受け取ったシンジは、「頼んだ」と言ってドンカラスを先へ行かせた。
林へ入り、ドンカラスの鳴き声を頼りに進む。
しばらくするとドンカラスがひときわ大きく鳴いたので、シンジは重いバッグを手にその場所へ向かって再び駆けだした。
(見つけた……!)
シンジがドンカラスに驚いているグレーの人影の前へ姿を現すと、そのトレーナーは「わっ」と言いながら慌てて自分の側にいたポケモンをボールへ戻した。
一瞬見えたそのポケモンは、ロズレイドだった。
あのリーフストームを使ったポケモンで間違い無いだろう。
何故ボールへ戻したのか少し疑問だったが、ドンカラスと相性が悪いからだろうと勝手に納得した。
グレーに見えたのは、ゆるいウェーブのかかった長い髪だったようだ。
そのトレーナー――ツバ付き帽子をかぶりメガネをかけたシンジと同い年くらいに見える少女は、急に目の前に現れたシンジに怯えたような反応をした。
「びっくりした……。ト、トレーナー?」
「さっきリーフストームを放ったのはお前だな。俺とバトルしろ」
「…………」
「……どうした?するのか?しないのか?」
「あっ、う、ううん!なんでもない。バトル!バトル、しよう!」
「……?」
一度開いた間はなんだったのか。
シンジが単純にバトルを申し込んでいることが分かると、少女は打って変わって喜んだ様子を見せた。
「トバリシティのシンジ。……お前は?」
「湖と同じ名前なんだね。私はヨスガシティの、……」
「入れ替えなしの3対3。問題ないな?」
「うん、いいよ」
が了承すると、シンジは木の上にいたドンカラスを呼び寄せた。
あえて先発を見せることで、相手に有利なタイプを出させる狙いだった。
相手がどれくらいの実力なのかは分からないが、ジムリーダーになるのならばこのくらいの場面は当然のように切り抜けなければならない。
(さて、どうくる……?)
シンジはひこうタイプやあくタイプに有利、かつ目の前のトレーナーが持っていそうなポケモンを思い浮かべ数秒の間に頭の中に何通りもの対応策を並べていたが、相手が繰り出したポケモンを見て拍子抜けした。
「お願い、ペラップ!」
「……?」
(有利なタイプのポケモンを持っていないのか?それとも素早さを取ったのか……。まぁいい、どちらにしろ……)
「ドンカラス、ふいうち!」
「アンコール!」
「……!」
ドンカラスの先制攻撃が失敗に終わる。
加えて、ドンカラスはしばらくの間攻撃の選択肢が無くなった。
「すてぜりふ!」
クワッ、とひときわ大きな声を出したペラップがボールへと戻ってゆく。
そして代わりに現れたポケモン。緑色をした菱形の羽を持つポケモン、ビブラーバ。
またしてもタイプに有利性のないポケモンが繰り出され、シンジは不思議に思ったが――
「であいがしら!」
「なっ……!」
ふいうちを上回る速さで繰り出された技が急所に当たったことによってドンカラスが倒れる。実質相手は無傷のまま、シンジは一体倒されてしまった形になった。
(一撃……それに巧妙な戦法。急所に当ててくる強さ。なめてかかったわけではないが……。いや、どこか慢心していたんだろう。……ありがたいことだ)
シンジは次に繰り出すポケモンの入ったボールを手に取り、を見た。
シンジとしては真剣に相手と向き合うため普通に視線を向けただけだったが、睨まれたと思ったは慌てて言葉を紡いだ。
「こ、こういう交代はアリだよね?」
「勿論だ。マニューラ、バトルスタンバイ!」
「えぇ?!」
シンジはタイプ相性、そしてこの林の中でも十分動き回れる素早さの高いポケモンを選択した。
ビブラーバに対してこおりタイプのポケモンが繰り出されることなど容易く予想できることだが、は大袈裟とも言えるほどに困惑した声を上げた。
「どうした。こおりタイプが来ることなんて簡単に予想できるだろう」
「そうだけど……そっちじゃなくて……」
「なんだ」
「……ううん、なんでもない。遮っちゃってゴメン」
「ふん、マニューラ!ねこだまし!こおりのつぶて!」
「あぁ!ビブラーバ!」
効果抜群のこおりのつぶてに倒れたビブラーバをがボールへ戻す。
そしては先ほどのペラップを再び繰り出した。
こおりタイプのマニューラがまたもタイプ的には有利であるものの、シンジはこのペラップがまだ厄介な技を覚えているだろうと踏んだ。
「つららおとし!」
「ペラップ!」
が詳細な指示をするでもなくまるでダンスの振り付けの一部のように手をひらりと上へあげると、ペラップは華麗な動きで木々の間をすりぬけ氷の柱を避けてみせた。
「チッ……」
(リーフストームを見た時から分かってはいたが、コイツ、やはり……)
木々の合間を飛ぶペラップをマニューラが視線で追う。
指示が無くても困惑せず絶対に相手を逃さないマニューラは、シンジが鍛えた、シンジの強いポケモンだ。次は絶対に当てる。
「もう一度、つららおとし!」
「おしゃべり!」
マニューラのつららおとしより少しだけ、ペラップが技を発動する方が早かった。
マニューラがこんらん状態になる。
が、しかし――
「まさかあの状況でつららおとしを当ててくるなんて……」
「ふん、当然だ」
「すごい……すごい、この感じ」
倒れたペラップがボールへと戻される。
逆転されたというのに、は喜びに満ちた表情をしていた。
そして勢いのまま次のボールに手を掛けたものの、「あっダメダメ」と言いながら違うボールを選んで前へと突き出した。
「まさかこんなところで、こんなに良いバトルが出来るなんて思わなかった!いくよジバコイル!バトル!スタンバイ・レディ!」
「!」
自分と似たようなセリフにシンジが反応する。
(さっき困惑していたワケはこれか?……何だ?何か引っかかる……。いや、今は――集中だ)
「マニューラ!つじぎり!」
「ラスターカノン!!」
「くっ……戻れ、マニューラ」
混乱状態のマニューラは自分を攻撃し、その上からジバコイルの技をくらって倒れた。
シンジはボールの上から「ご苦労だった」と声を掛ける。
最後の一体は決まってた。
「エレキブル!バトルスタンバイ!」
ボールから出たシンジのエースポケモン、エレキブルがうなり声を上げ大きな拳をぶつけ合った。
はその様子を見て目を見張る。
「強そうなエレキブル……。エースポケモンなんだね」
「いいからかかってこい。いくぞ、かわらわりだ!」
「回転!」
「流石に避けるか、だが……じしん!」
「でんじふゆう!」
エレキブルのかわらわりを縦回転で避けたジバコイルが今度は間一髪、でんじふゆうでじしんを無効化する。
「対策してないわけないでしょう!ラスターカノン!」
「かわらわり!」
「っ……わぁ!」
ラスターカノンをかわらわりで裂きながらジバコイルに突っ込むエレキブル。
その強さと度胸には感嘆の声を漏らした。
「よそ見している暇があるのか?」
「分かってるっ……ジバコイル!」
「ふん」
―――十分後
「うぅ、やっぱり効果抜群の技をふたつも持ってる相手に対してこっちはラスターカノンしか打つ手が無いっていうのは厳しいって……」
「もっと構成を考えろ。ジバコイル以外、全員こおりタイプに弱いポケモンだろう」
「おっしゃる通りで……って、知ってるの?!もう一匹……」
「ロズレイド。ボールにしまう時に見た。そいつがお前のエースポケモンだろう。なぜ……ん?」
「え?………う、うわっ雨!」
「まずい、ここの雨はたちが悪い」
早くどこかへ避難を……。
とは言っても、ここシンジ湖のほとりには木々以外に何も無い。
そしてバトルのことから頭を切り替えた2人は思い出した。
「ジバコイルとペラップとビブラーバが倒れちゃったから私飛べるポケモン持ってないっ。乗れるポケモンもいない……」
「……俺もだ」
「てことは……?」
「……走るぞ」
「ええ~?!」