URBAN FOLKLORE   

04


「わぁすごい!色んなポケモンがいますね!他の地方のポケモンまで……。その知識はどこから得たものなのでしょうか」
「そうですね。自分は昔トレーナーをしていて色々な地方を巡ったので、その時の経験が役に立っているのかもしれません」


――半年ほどの休養という名のジム巡りを終えたは仕事に復帰していた。
復帰ライブと色々なテレビ番組での挨拶を終えた後は、以前と同じく忙しくも平穏な、そしてどこか物足りない日々を送っている。


今日はとある番組のコーナーで育て屋を特集するため、は近年評判の良いトバリシティの育て屋を訪れていた。
事前調査で把握していたことではあったが、この育て屋を一人で切り盛りしているというレイジという青年は他の育て屋経営者に比べて若い人間で驚いてしまう。
だがしかし、話をしてみるととても落ち着いた態度でポケモンの知識も深く、なるほどこの人に預けたくなる気持ちも分かると思わされた。

インタビューを終えると、レイジはご自由に見ていってくださいととスタッフ達に告げてせわしなく作業に戻って行った。
スタッフ達も忙しいのに嫌な顔ひとつせず取材を受けてくれたレイジに好感を持ったようで、邪魔にならないようちょっとだけ周りを撮ったら退散すると言ってにも自由行動を言い渡した。
はどうしようかと考えたが、そのときちょうどコリンクが足下を元気よく走り抜けて行ったので、特に目的もなくそれを追うようにして歩き出した。

(ここにいるポケモンたち、みんな誰かのポケモンなのに野生の時みたいにのびのびしてる。うん、この感じを上手く言語化できたら良いコメントになりそう……って、はぁ、もうすっかり頭が仕事モードになっちゃったよねぇ)

そんなことを考えながら、がふと敷地内にある建物の方を見た時だった。
視界に映ったマニューラに、見覚えがあった。

(あれ?あのマニューラ、もしかして……)

マニューラはひょいひょいと慣れたように建物の中へ入っていく。
おそらくあの建物はレイジの家なのだろうが、レイジは預かったポケモンを自宅に出入り自由にさせているのだろうか。
別にそれほど変なことではないけれども、あのマニューラの慣れた様子とマニューラ自体のことが気になって、は建物の方へと足を向けた。

「す、すみませーん……」

開きっぱなしになっているドアから形だけの挨拶をして顔をのぞかせると、そこには予想通り人間が生活する空間が広がっていて、ポケモンが入り浸っているといった様子は無かった。するとやはり先ほどのマニューラのことが気になってしまうが、レイジが居ないのに勝手に中に入るのは憚られるなぁ……と思ったのも束の間、暖炉の上にあったものに気がつくと、は思わずそれを見るために足を進めてしまった。

「ジムバッチ!こんなにたくさん……」
「ニャッ」
「わっ!」

並べられたくつもの額縁の中で光るバッチをしげしげと眺めていると、後ろからチョンと足をつつかれた。
振り向くとポケモンフーズを器用に抱えたマニューラがいて、目が合い、それで確信した。

「やっぱり!あなたはシンジのマニューラだよね?」
「ニャ!」
「わぁ、久しぶり!お手伝いしてるの?えらいね。あ、私持つよ」

がマニューラが両手に持っていた袋の片方を持つと、マニューラはまたささっと奥の方へ向かいもう一袋持ってきて、結局両手に袋を持つ形になった。
「大変だね」と言うと、ニャ~と鳴いたマニューラがまるで「あんたもね」と言っているようで、は笑ってしまった。

マニューラはとても賢く働き者でこの場所を熟知しており、ここで自力で餌を取ることが難しいポケモンを優先してポケモンフーズを配って回っていた。
もそれに付いて回り、無くなったポケモンフーズを取りにまた建物へ戻って再度マニューラとふたりで外へ向かおうとしたところだった。

「ああっ!こら、マニューラ!お客さんに手伝わせちゃダメだろ。ごめんね、ちゃんコイツが……」
「いえいえ!私が手伝うって言ったんです。この子、知り合いのポケモンみたいで」
「え、このマニューラがかい?コイツは弟のポケモンなんだけど……」
「……ん?す、すみません。今なんて?」

レイジとマニューラが顔を合わせる。
その様子から、確かにマニューラは他人から預かったポケモンではないことが分かる。
マニューラは小さなイタズラが成功したみたいニシシと笑った。

「えっと、このマニューラは俺の弟のポケモンなんだ。弟はいま違う地方に居てね。それで預かってる。シンジって言うんだけど、本当に知り合いかい?弟がコンテストアイドルと知り合いだとは思えな……ってちゃん、大丈夫?震えてるよ」
「……え、……え」

▼△


「すみません、お邪魔してしまって。あと先ほどは失礼しました……お恥ずかしい……」
「いいよいいよ。それより驚いたな。シンジは本当にちゃんと知り合いだったんだ」

思わぬ所でシンジの名を聞いたどころか、家まで知ってしまった。そして目の前で話しているシンジと真逆のような好青年が実の兄であるという事実に驚いたことで、は「ええ~~!!!」と大声を上げてしまったのだった。
それからスタッフ達には知り合いの家だったという事情を話して先に帰ってもらい、はこうして一仕事終えたレイジと話をしているというわけだ。
「いただきます」と言い差し出された紅茶を飲み一息ついたは、半年前の今でも鮮明に思い出せる出会いのことを初めて人に打ち明けた。

「シンジは誰に対しても無愛想なところがあるけど、失礼なことはしなかったかい?」
「いえ、全然。冷えないようにブーバーンを出してくれたり、気を利かせてくれましたよ」
「へえ、そっか。それなら良かった」

紅茶のカップを撫でながら安心したように言うレイジは、きっと兄としても良い人間なんだろう。兄弟姉妹のいないはそれを羨ましく思いながら、恐る恐る、一番聞きたかった話を切り出した。

「シンジはジムリーダー就任の準備をしていると言っていました。その……もう立派にジムリーダーをしているのでしょうか」
「そんなことまで話していたんだ。そうだね、まだ立派にとは言えないかもしれないけど、務めは果たしているよ」
「そっか……。そうなんですね」
「どうかしたのかい?」
「ああ、いえ。えっと……あの時シンジは何か悩んでいるようでしたので……」
「驚いた、本当に色々話していたんだね。そう、シンジは何か悩んでいたんだけど……俺も忙しいし、あの通り余計な世話を焼いて喜ぶようなやつでもないから自分から何か言ってくるまで放っておいたんだ。だけどシンオウを旅立つ前日にさ、旅立ちを1日遅らせたと思ったら急に憑きものが落ちたような顔をしていたんだよね」
「えっ、ほ、本当ですか?!」
「?うん。本当だよ」

あのチケットの半券は大切に保管してある。
もし自分のライブがきっかけだったら嬉しいという気持ちで顔がニヤけてしまうのを必死にこらえながら、は勢いで聞いてしまった。

「あの、シンジって今どこにいるんでしょうか?」
「えーとねぇ……うーん、勝手に言ったら怒られそうな気もするけど、いいか。カントーのセキエイ高原って分かるかい?あの近くにトキワシティという街があるんだけど、そこに居るよ」
「セキエイ高原って、カント-のポケモンリーグ本部があるところで有名ですよね?じゃあシンジはリーグに挑戦する一歩前のトレーナーの相手が訪れることが多いジムを担当していることになるってこと……でしょうか」
「察しがいいね。その通りだよ」
「……それは聞いていませんでした。すごいなあ、シンジ」
「あはは、ちゃん、それシンジに言ったりしたかい?どの口が言ってる~、とか言いそうだ」
「あ、当たりです!言われましたよ!流石お兄さん」
「伊達にアイツの兄貴やってないからね」

そうやってシンジの話題で盛り上がっていると奥の方からマニューラがやってきてレイジの隣に座った。
何をするわけでもなくただ話を聞いているようだったが、しばらくするとレイジのポケットを爪でつつき始めた。どうやらスマホロトムが気になるらしい。

「ああ、シンジの話をしいてるからシンジの顔を見たくなったのかもしれないな」

そう言ってレイジがマニューラの頭を撫でると、マニューラはニャアと鳴いた。
どうやら当たりらしい。

「流石に今通話するわけにはいかないけど……あ、そうだ!シンジが1年帰って来なかったことってあまりないから、あと半年以内には帰省してくれると思うんだよね。そしたらちゃんに知らせようか」
「!……い、いいんですか?」
「うん。まぁシンジに前もって伝えると連絡するなとか言いそうだから、内緒でってことになるけど」
「それって大丈夫なんでしょうか……?怒ったりしません?」
「昔と比べてシンジもだいぶ寛容になったし、怒りはしないと思うんだよね。それより次を逃すとその次までまた長いだろうし、いいんじゃないかな~と俺は思うよ」
「そ、そういうことなら~……」

などと言いつつ、は待ってましたとばかりにスマホロトムを取り出し、レイジに自分の連絡先を提示した。
連絡先を交換した直後にレイジはハッとした表情をして、自分と連絡先を交換して仕事上怒られないかと心配していたけど、は何もやましいことは無いので問題ないと答えた。
実際は取材に行った先で男性と連絡先を交換したと知れたらそれなりに怒られそうな気もするが、そんなことはどうでも良かった。
レイジの連絡先がシンジに繋がっていると思うと無性に嬉しかった。



取材のあった日から一週間後、”トバリシティの育て屋”が紹介されるのを視るためにが出演しているテレビ番組をつけたレイジは思った。

(なんだかシンジのことで普通に話してたけど、俺ってアイドルと喋っていたんだよなぁ……って、待てよ。あの時シンジが旅立ちを1日遅らせた理由ってやっぱり……)