URBAN FOLKLORE   

06



「兄貴、なんか様子が変じゃないか」
「え!?そ、そんなことないよ」
「…………」

帰省したからと言って特別何があるわけでもない。
自分のポケモン達の顔を見て回った後、レイジが数ヶ月前に育て屋の取材を受けたというからそれの録画を見始めたら、そのリポーターをしてたのが一年前自分がシンジ湖で偶然出会い特別な時間を過ごしたシンオウのコンテストアイドル、であったから驚いて一瞬固まってしまった。

それを横に座っている兄がチラチラと見てくるものだから気になって、再生していた映像を一時停止して聞いたのだが……そんなに動揺していては肯定しているようなものだ。
まさか一年前の自分の様子を覚えていて揶揄っているのだろうかとシンジは考えたが、あの時は軽く流されたはずだったし、レイジは一年も前のことを引っ張って揶揄うタイプでもないのでやはり不思議だった。

(一体なんなんだ……)

まぁ別にためらうことはない、聞いてみればいい。
シンジはそう考えて声を掛けようとしたが――

「ああっ、もうこんな時間か!今日は水ポケモン達を洗ってあげる予定なんだ」
「…………」
「じゃあシンジ、ゆっくりしていてよ。あ、今日夕飯は家で食べるよね?ご馳走を取ってあるからさ」
「ああ、夜は居る」
「良かった!じゃ、また夕飯の時に」

多少演技くさかったが、忙しいのは本当だろう。
レイジは相変わらずだった。

シンジは昼間、預けていた自分のポケモン達を連れてトバリシティの南にあるリッシ湖へと出向き、たくさんバトルをした。リッシ湖にいるポケモンやトレーナーはそれなりに手強い記憶があったのだが、やはりシロガネ山に比べるとその強さは劣る。
それでもしばらく共に過ごせていなかった自分のポケモンと思う存分バトルが出来たこと、久々にシンオウのポケモンとたくさん出会えたことで満足だった。
明日はなるべく寒いところへ行きたい。やはりキッサキシティだろうか。
シロガネ山も頂上まで行けばシンオウを超える極寒だと聞くが、頂上へはまだ行ったことはなかった。


家についてドラピオン、ユキメノコ、テッカニン、マニューラをボールから出す。
全員久しぶりに思い切りバトルが出来たからか、嬉しそうにしている。
やはり自分のポケモンだと感慨深く思い、各々が自分が居たい場所へ向かっていくのを眺めていた。
マニューラだけは自分と共に家へ戻るつもりらしく、なんだかソワソワしている。
きっとご馳走が楽しみなのだろう。


「……多くないか?」
「まぁ、三人分だからね」
「どういうことだ」
「あはは、えーと、お客さんが来るんだよね」

聞いてないが、とシンジがいつもの調子で言えば一気に空気が険悪になってしまう。
シンジがどういうニュアンスで言えば良いか一瞬躊躇った隙に、側に居たマニューラがニャアと機嫌良く鳴いた。

「マニューラ、お前が知っている人間なのか」

シンジがそう聞くと、マニューラはコクコクと首を動かして肯定した。

「あ、あはは、まぁね!黙っててごめん。でもシンジに是非会って欲しくて」
「…………」

なるほど今朝の兄の変な態度の原因はこれか、とシンジは納得した。
誰なんだ、と目線で訴えるとレイジは目を泳がせた。

(言う気は無いということか。……だがしかし、予想はつく。
マニューラが知っていて、俺が知らない人物。
そしてその人物が来ることでマニューラがはしゃぐような関係。
別に、今までそのようなことが無いことの方が不思議だったんだ。
兄貴は世間一般でいういい男の部類だろうし、育て屋という職業は出会い自体はあるのだからな)

シンジはあるひとつの結論を出していた。
これから訪れるだろう人物は、この一年の間に出来た兄の彼女だろう、と。
久々に帰った家で知らないやつと食事を共にするなど正直憂鬱だと思っていたが、それならば話は別だ。
一年に一度しか帰省しない自分に会わせておきたいのも当然だろう。
まだジム巡りをしていた頃の自分だったら果たして素直にこの場に居られただろうか、と考えシンジがふと笑みをこぼすと、「急に笑ったりしてどうしたんだい?何か様子が変だよ」とレイジが言い放った。
こっちのセリフだ、とシンジは思った。


「……それより、もう料理は並べ終わっているようだが、その……客、はいつ来る予定なんだ」
「あ、うん、もう着くって連絡あったからすぐだと思うよ…………ほら!シンジ、出て貰えるかい?」
「…………」

レイジがすぐ来ると言った通りに、会話の途中でコンコンと控えめに扉を叩く音がした。
レイジが大袈裟とも言えるほどにシンジに扉に向かうよう促すので、何故自分が?と怪訝の念を持ちながらも、外で客を待たせるのは良くないと思い、シンジは大人しくレイジに代わり客人を迎えることにした。

中から何の反応も無いことを不安に感じたのだろう。
客人がもう一度外から扉を叩いたのでシンジは急いで扉を開けた。

「すみません、待たせてしまっ…………」
「わっ、シンジ?!い、一年ぶり」


――――――見間違いか?


「わー!閉めないで閉めないで!」

兄を好きになり兄が好きになったという人は一体どういう人だろうか、などと考えながら扉を開けたのに、実際にそこに立っていた人物を見てシンジは固まり、一旦視界から遮ることで冷静になろうと無意識に扉を戻してしまった。
が焦って扉を掴みそれを止めると、シンジは我に返って、ワケもわからないまま、そしてまともに目を合わせることも出来ないまま、を中へ招き入れた。


「……どういうことだ兄貴」
「あはは、サプライズ成功、かな?」
「ふふ、ですかね?でもいきなりシンジが出迎えてくれると思わなかったので私までサプライズされた気分です」
「お前ら……」
「あ……シンジ、怒ってる?」
「……怒ってはいない」
「よかった~」
「ほらね、怒らないって言っただろう?とりあえず二人とも座って座って。冷めない内に食べようよ」

はコートを着て手荷物を持ったままだったが、それをどうしようかと考える前にシンジが「上着と荷物を」と手を差し出してくれたので、それに従いお礼を言いながらコートと手荷物を手渡した。
そして受け取ったシンジはそれを然るべき場所に置く前にテーブルへ足を向け、客人が座る予定であった席のイスを引き、に座るよう促した。

「あ、ありがとう」
「え、シンジどうしたんだい?向こうで何かそういう経験を積んだりしたの?」
「なんで兄貴は引いてるんだ。俺だってこのくらい出来る」
「ええ……、俺の知ってるシンジはそんなこと出来なかったけど」
「うるさいな、冷めないうちに食うんだろ」

レイジにいじられながらものコートを掛けて荷物をカゴに入れての足下へと置いたシンジが席に着き、ようやく食事となった。

「すごく美味しいです!レイジさん」
「それは良かった!ちゃんにもシンジにも受けが良さそうなものって何か結構考えたんだよね。あ、ちなみにそのスープだけは俺が作ったんだけど、どうかな?」
「本当ですか?!美味しくてこれもどこかのお店のものなのかと!シンオウ特産の野菜がゴロゴロ入って、健康に良さそうだなと思いました」
「流石、レポートが上手いなぁ~」
「…………」

シンジ自身があまり喋るタイプでは無いことがこの雰囲気を作り出した要因のひとつだと言うことは分かっていたが、二人があまりにも仲良さそうに会話をするので、一旦は無かったことにしていたあの仮説――客人はレイジの彼女なのではないか――が本当なのではないかと疑い始めていた。
兄が選んだ女性であれば素直に受け入れ挨拶をする覚悟であったが、相手がとあってはいささか……いや、かなり面白くない。
態度には出していないつもりだったが、流石兄と言うべきか、シンジの機微を感じ取ったレイジがとの会話を中断し、シンジに問いかけた。

「シンジ、何か難しいこと考えてるだろ」
「…………」
「図星だ」
「チッ……別に、難しいことじゃない」
「へぇ、じゃあ言ってみてよ」

レイジが今まで自分と会話していたテンションでそう言ったので空気こそあまり悪くなることな無かったが、シンジに向けたその挑発的な発言にはドキリとした。
としては夕食後にでもシンジとゆっくり話ができればと期待していたので、ここであまり険悪な雰囲気になって欲しくはなく、こういう風に問われて果たしてシンジは素直に答えるのだろうか、いや、兄であるレイジ相手なら答えるのかもしれない、などと考えを巡らせながら恐る恐るシンジの方を向くと、シンジの方もちょうどの方に視線を向けたらしく、目が合った。

「!」
「っ……、兄貴の……」
「ん?俺?」
「兄貴の彼女、なのか?」
「……えっ?!わ、私が?!」
「他に誰がいる」

シンジが一体どうしてそういう勘違いをしているのか分からなくて、誤解を解くにはどうすべきかをが考えている間に隣でレイジが笑い出した。

「あはは、シンジ、なんだってそう思ったんだい?全然違うよ」
「あれだけ仲良さげに話していたのにか?」
「それだけで?ああ、でもそうか。シンジにしてみればちゃんが自分に会いに来る意味が分からないのか」
「ああそうだ。それに俺が帰省したこのタイミングでわざわざ夕食に呼んで会わせたい人がいるなんて言われたら、そんなことも考えるだろう。兄貴はずっと忙しくてそんな話を聞かなかったから、少し安心したりもしたんだ」
「え、なんかごめん。それでさっきちょっと笑っていたのか~。まぁ俺のことは置いといて、今回の件はちゃんがシンジに会いたいってことだったから実現したんだ。色々聞いたけど、ジムリーダーのことまで話したんだ、シンジにも覚えがあるだろう?」
「ちっ…………」
「……ってえぇ?!レイジさん!」
「ん?」

もしかして兄弟喧嘩が始まったのではとそわそわしていただったが、自分がシンジに会いたがっていたことについてレイジに思わぬ暴露をされたことで肩を跳ねさせた。
当のレイジはが何を慌てているのか分かっていない様子。
対してシンジはの慌てぶりを見てその原因を察したらしく、と目が合うと少し頬を赤らめながらサッと目をそらした。

「わ、わわわ……えっと……」
「…………」
「あ、そうだ!シンジ一年前私がチケット渡したライブ、来てくれてたんだよね」
「?!な、なぜ知っている」
「じゃーん、このチケットには私がサインを書いておいたので半券でバレバレなのでした~」
「卑怯だぞ……!」
「私が誘ったんだからそんなに隠さなくてもいいのに。それで、どうだった?コンテストライブは」
「……意外と良かった。メリッサさん以外にも名のあるトレーナーがたくさん呼ばれていたしな」
「そこ?!もっとなんかほら、あるでしょ?私の……」
「お前は歌も歌えるんだな」
「そこでもなくてぇ~、もう!」

二人のやり取りを見ながらレイジは思った。
シンジはあの時のライブに行っていたのかだとか、シンジはすっかり機嫌が良くなったようだとか、自分がいるのを忘れてイチャつきすぎではなど色々あるが、何より自分の身の振り方もどうにかしなければな、と。
まさか弟に先を越されるとは思ってもいなかった。


―――
▼あとがき
再会までの前置き長すぎると思ったんですが、まさか再会できると思っていない時間を書くのが楽しい人間なのでごめんなさい。